名古屋高等裁判所 昭和30年(う)704号・昭30年(う)708号 判決
刑事訴訟法第二百五十六条第六項によれば起訴状には事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し又はその内容を引用してはならないから、起訴状を作成するにはこの点に留意し、一般の犯罪事実を起訴状に記載するには犯罪事実と何等関係がないのに拘らず、被告人の悪性を強調する趣旨で被告人に前科あることを掲げる如きことは前記規定の趣旨から避くべきことは論のないところである。そして本件公訴事実は原判決(第三の(七))掲記の如く「被告人は昭和二十八年九月二十三日確定の傷害暴行罪及び昭和二十九年七月十七日確定の傷害罪の前科を有する者であるが、別表記載の通り(別表省略)昭和二十九年八月十七日頃より同年十月五日頃に至る迄の間三回に亘り常習として相宮主計外二名に対し暴行を加えたものである。」というのであり、右前科の記載は常習性の具体的説明としてなされたものであること明白であり、右前科自体は前記常習性内容に必要的なものではないが之と密接な関係のあることも通常であり、この程度の前科の表示をみて直ちに前記刑訴法第二百五十六条第六項の規定に違背したものとは云ひ得ない。従つて本件公訴の手続がその規定に違反した為無効であるとの主張は採用できない。
尚被告人に対する昭和二十九年十一月十一日付及び昭和三十年一月二十四日付各恐喝被告事件の起訴状の冒頭にも「被告人は予てより居村及び其近隣に於て乱暴者として名の通つているものであるが云々」と被告人の悪性格の記載と見へる如き各記載を存しているが、右記載の趣旨は各訴因の全旨を通じて被告人の右の如き状況下に於ての行為が関係被害者に畏怖を生ぜしめたことを説示することにあるので単なる被告人の悪性格の表示でなく訴因の一部を構成するもので違法の点は毫もない。
(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 赤間鎮雄)